第16章 柱と温泉
額から流れる血で更紗の顔の左半分が赤く染まり頬の色の変化はもはや判別出来ない。
辛うじて見える首筋には更紗独自の呼吸である紫炎が刺青のようにくっきりと刻まれていた。
「あれは痣ではないのか?」
「そうだろうな……闘気が凄まじく練り上げられていく。冨岡、すまないがあれを俺に受けさせてもらえないだろうか」
そう言った杏寿郎の顔を見て義勇は息を呑んだ。
「煉獄……お前の顔にも痣が」
「そうか……なるほど、この負荷は確かに堪えるが更紗の言っていた意味が理解出来た。来い、更紗!」
杏寿郎は左頬から額にかけて橙と赫の炎のような痣を発現させ、更紗と同じ構えをとった。
「「炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄」」
2人は同時に強く地面を蹴りつけて互いに距離を一気に詰める。
あと僅か、あと瞬き1つでぶつかり合うと言うところで更紗は杏寿郎の痣に気付き、構えていた木刀を捨て去って勢いそのままに涙を浮かべながら杏寿郎の胸元へと手を伸ばす。
それを目にした杏寿郎は木刀を握る手の力を完全に手放し、こちらも木刀を地面へと落として奥義の発動を無理矢理に中断した。