第16章 柱と温泉
全くもってその通りだ。
まだ2人から一撃ずつ受けただけで、誰も技すら出していない。
「お手柔らかにお願いします」
「無尽蔵に動けるならその必要はない」
意外にも厳しいお言葉が返ってきたことに驚きながらも、初めて会話らしい会話が出来た喜びから笑みを浮かべ、義勇の木刀を力一杯弾いて、頭上から技の発動を試みている杏寿郎に対して即座に更紗も構えて迎え受ける準備を整えた。
「炎の呼吸 参ノ型 気炎万象」
「紫炎の呼吸 伍ノ型 烽火連天」
一方は地面へ一方は上空へと木刀を振り切り交差する。
行き場の失った2色の炎はその場で弾け2人の周りを覆い尽くすが、交差は解かれてはいなかった。
(このまま体重を乗せられてしまえば……負けちゃいます!)
更紗の胸中を杏寿郎は察しつつも、更に木刀へ込める力を強くした。
「このままでは負けてしまうな。どうにか切り抜けろ!」
「そんなこと……分かってますよ!」
若干の更紗の癇癪に杏寿郎は笑みを浮かべるが、それとほぼ同時に淡く色付く首筋と頬の2色の痣に目を細めた。
「もう!重いです!」
そんな杏寿郎の表情の変化に気付かず、更紗は知らず知らずのうちに上がった筋力を使って後ろへ跳躍し、どうにか危機的状況を脱した。