第16章 柱と温泉
どうやら玄弥は色変わりの刀との異名を持つ日輪刀の刃の色を変化させられなかったらしい。
その事実を知っていたのはしのぶと行冥だけで、兄である実弥は知らなかった。
当然どの呼吸の技も使用出来ず、柱相手に木刀を振るだけ。
それを不思議に思った義勇が尋ね、玄弥が理由を答えてから実弥が怒り狂ったのだ。
実弥は玄弥に暴言を吐き散らしていたが、それが心配から来る暴言だという実弥の本心を更紗は知ってしまっているからこそ胸の奥が痛んだ。
そんな騒ぎの後、本人の希望もあって試合は続行されたが……結果は惨敗。
未だに怒りのおさまらない実弥は柱たちから宥められた後、気持ちを落ち着かせるためか皆から離れて地面に座っている。
「実弥さん」
「あ?あぁ…… 更紗かァ。試合前に変な空気にしちまって悪かった。もう試合始まんだろ?」
これから2対1という過酷な試合が始まるが、義勇が連戦となるため少しだけ時間を空けられている。
その時間を苛立ちや心配などの感情が入り乱れている実弥を知らんふりすることが憚られ、杏寿郎に断りを入れてここへやって来たのだ。
「あと少し時間はございます。お隣り、よろしいですか?」