第16章 柱と温泉
同じ伍ノ型であっても更紗の攻撃は下から、実弥の攻撃は上から。
高く跳躍してから振り下ろされた木刀は実弥の持ち前の腕力も重なって猛烈な重さの攻撃となり、振り上げられた更紗の木刀は半分の位置からへし折られて宙を舞った。
もう木刀は使えないと更紗は手に残った残骸を捨て去り、杏寿郎と同じくらいの背丈のある実弥の右手首を掴んで背負い投げを試みる。
「さすが鬼に向かってかかと落としかますだけの事はあるなァ……だが、あの下弦の鬼より俺の方が強ェんだよ!」
実弥は背負い投げられている体を空中でフワリと翻し、掴まれていない方の手で更紗の手首を掴んでそのまま後ろへ押し倒した。
「首元に木刀突きつけられたらなんて言うか知ってっか?」
背中に衝撃を感じたかと思えば、いつの間にか更紗は地面に仰向けに倒されており、瞳に映る光景は実弥が自分の首元へ木刀を突き付けている姿だけだった。
しかもご丁寧にも抵抗出来ないよう体や手を使って手足を拘束されていて身動き1つとることは叶わない。
「参りました……うぅ……」
歯が立たなかった。
あれだけ杏寿郎に鍛錬をつんでもらっても、こうしてねじ伏せられ地面へ押さえつけられている現実が悔しく目の奥にツンとした痛みが走った。