第16章 柱と温泉
可愛い妹に対する教育はそれはそれは激しいものだった。
それこそ剣士へ向ける怒号そのもののような攻撃で、棗が出していた風の呼吸の技はそよ風だったのではと思えるほどだ。
「おらァ!しごきはまだ終わってねぇぞォオ!」
「もうっ……教育ではなくしごきって認めてるではないですか!」
反論する余裕のある更紗へ再び黒い笑みを向け、仕上げだと言わんばかりに距離をとって構える。
「奥義でもなんでも打ってきやがれェ!木刀ごと吹き飛ばしてやっからよォ!」
ずっとこの調子で更紗は挑発されっぱなし受けっぱなしだ。
元は穏やかな性格であっても、挑発され続けたうえに戦闘により興奮状態である更紗は体温心拍数の上昇も相まって頭に血が上った。
「師範以外にやられっぱなしになるのはヤダ!」
更紗は首と頬に現れつつある痣のようなものの色を濃くして、右へ体ごと捻りながら勢いよく実弥との距離を詰める。
「紫炎の呼吸 伍ノ型 烽火連天」
「風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪」
右斜め後ろから振り上げる際、紫の炎が木刀の軌道に添って揺らめき、振り切ったと同時に上空へ激しく燃え広がる……はずだった。