第16章 柱と温泉
「そりゃ仕方ねぇなァ……と言うとでも思ったかァ?!俺にも本気出してみやがれ!」
聞く耳持たず。
木の蔓をポイと投げ捨て、普段更紗に対して穏やかな実弥が黒い笑みを浮かべたまま迫ってくる様は更紗にとって恐怖を感じるものだった。
「ひぅ!!痛っ……」
予備動作なく叩き込まれた木刀をどうにか受けるが上手く流すことが出来ず、衝撃がもろに腕へと伝わり痛みに顔をしかめる。
「んなモンじゃねぇだろ!宇髄に言われたこと忘れたか?!俺が怪我するかもなんて考えんなよ!」
違う。
更紗にとって実弥と今日初めて打ち合いをしたので動きが分からないのだ。
天元や杏寿郎とは幾度となく打ち合いをしてきたので何となく初撃の癖が読めるが、実弥は初めてな上に速くて体がついていかない。
鍔迫り合いの今のうちにどうにか対策を考えたくても力が強すぎて考える暇もない。
「そうではないです!実弥さんの動きが……速くて分からないんです!」
「それは鬼と闘う時も言えることだろォが!俺より速い鬼なんてゴロゴロいるぞ!助けてェ奴がいて、そいつがその鬼に襲われてても速けりゃ同じこと言って諦めんのかァ?!」