第16章 柱と温泉
天元は更紗の顎を指で掴んで右を向かせると、首筋から頬にかけてを念入りに確認するがやはり何も見当たらない。
「やっぱ見間違いか……?」
「私の顔に何かついていましたか?」
本人に自覚症状はない。
天元の気も知らず向こうを向かされたままキョトンとしている。
「何かあったのか?」
2人の側へやってきた行冥は天元と更紗に問うが、更紗は指で顔を固定されたまま首を傾げるので、自然と行冥は天元へと顔を向けた。
「いや……姫さんの左の首筋から頬に薄紫と橙の痣が出たように見えた。体に異変があんならやめるか?」
更紗を解放して心配げに顔を覗き込んだが、更紗は首を左右に振ってそれを拒否した。
「大丈夫です!もし痣が出たとしても続けます!悲鳴嶼様、私のせいで試合を中断してしまい申し訳ございませんでした。再開させていただいてよろしいでしょうか?!」
戸惑う天元をよそに凄い勢いで詰め寄る更紗に行冥は僅かに仰け反らせつつ、本人に続行の意思があるのならばとその申し出を受けいれた。
「分かった。何かあればすぐに私を呼びなさい。宇髄もそれでいいな?」
「……仕方ねぇな。んじゃ、仕切り直すとしますか!姫さんがそこまで言ったんだ、手加減はしねぇからな!」