第16章 柱と温泉
その言葉の通り更紗は天元から離れようと足を踏ん張り、こともあろうか全力で引き寄せんと力を入れている天元を引きずっている。
更紗と天元の身長差はゆうに1尺を超えている。
筋肉量など比べ物にならず、腕力で言うならば杏寿郎をも天元は上回っているのだ。
それを引きずるのは常軌を逸している。
「待てって!なんで俺を引きずれんだよ!ちょっと冷静に考えてみろ、体に変化起きてんじゃねぇのか?!」
「火事場の馬鹿力です!絶対に鈴は取らせません!」
「んな訳あるか!落ち着けって……この、姫さん!」
天元は右手に掴んでいた木刀を放り投げ、両手で更紗を引っ張り寄せて足を払い地面へ転ばせると、そのまま両手で手を拘束し暴れる足に尻をおいて体の重さで固定した。
「天元君、何を……」
「このままじゃあ俺が姫さんを襲ってるように見られんだよ!鈴は取らねぇから暴れんな、いいな?!」
天元の言葉は的を得ており、実際に剣士たちがざわめき出し審判である行冥も歩み寄って来ている。
杏寿郎を含めた柱も何人かは今にも走り寄ってきそうだ。
その様子を見た更紗は慌てて頷き、開放された上体を起こして差し出された手を取って立ち上がった。