第16章 柱と温泉
天元の頭からサラリと更紗と似た色の髪が流れ、それを伝って赤い血が滴り落ちる。
対象的な2つの色が更紗の瞳に映り、思わず動きが止まって木刀を握る手が震えた。
「こんくらいで止まってんじゃねぇぞ!姫さんは俺が鬼なった時、そうやって攻撃止めんのか?!殺されんぞ」
聞いたことのない天元の低い声にどうにか我に返って距離を取ろうと足に力を入れるが、既にもう遅かった。
天元は叫び終えると身を翻して更紗へと向き直り、後ろへ飛び退こうとしたその手首を掴んで阻止した。
「姫さんは優しいからたまに心配になる。俺や煉獄……仲間が鬼にされた時、こうして躊躇って殺されんじゃねぇかって。俺の柱としての最後の助言だ、大切な存在だった奴ほど躊躇うな。後悔すんぞ」
未だに涙で瞳を揺らせる更紗に苦笑いを零しながらも首の鈴を取ろうと掴んだ手を引っ張るが、どういうわけかピクリとも動かない。
「助言はしっかり心に刻ませていただきます……でも鈴を奪わせるかはまた別のお話しです」
一瞬……見間違いではないかと天元が思うほど刹那の時間、更紗の左の首筋から頬にかけてフワッと薄紫と橙の影が写ったように見えた。
「姫さん、それ……ちょっと止まれ!」
「止まりません!」