第16章 柱と温泉
「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」
2色の炎が木刀から吹き出し天元の首元の紐を絡め取ろうとするが、天元の速度は軽々と更紗の速度を上回り届くことはなかった。
「そんなんじゃ当たんねぇぞ!俺が怪我するかもなんて考えんな!俺の鬼殺隊として最後の晴れ舞台、派手に飾ってくれよ!」
最後のと言う言葉に更紗の胸は締め付けられ、ジワジワと涙が滲んでくる。
「最後なんて言わないでください!」
気合いを入れさせようと発した言葉が逆に悲しませてしまった。
柱ともあろう者が……それ以前に大の男が年下の少女を泣かせている光景は試合を見守る全ての剣士の表情を険しくさせた。
「嘘だろ?!俺が悪いの?!俺は」
「悪くないけど嫌です!」
完全に悪者になった天元へ更紗は詰め寄り金の鈴へ手を伸ばす。
それは指先をかすりリンと音を鳴らした。
「あんま可愛いこと言ってくれんなよ!思わず鈴を渡しそうになっただろ!」
天元も自分より遥かに小さな少女の首元へ手を伸ばすが、更紗が持ち前の体の柔らかさを存分に発揮して、背中を後ろへ反らせて地面に手を付き、何度かそれを繰り返して距離を取られ鈴には届かなかった。