第16章 柱と温泉
どのみち初戦以降は鈴はかかっていない。
天元との勝負で鈴の命運は決まるので、その分緊張も幾分か和らぐ。
それに柱と手合わせしてもらう機会などそうそうあるものでもないので、胸を貸して貰えるならば気力の続く限り貸してもらった方が更紗の今後の糧にもなるのだ。
「む……そうか?では俺も名を連ねさせてもらおう!」
こうして更紗が対戦する人数が4人と決まったところで、審判である行冥から試合開始の合図が入った。
「第一戦は月神の連戦を避けるため、宇髄と月神の試合とする。他の者は後ろへ下がり待機」
行冥の指示に従い全員が2人から離れていくが、その去り際に杏寿郎が更紗の肩をポンと叩いて健闘を祈った。
「全力で挑むといい!応援しているぞ!」
肩に広がる手の温かい感覚、誰よりも恋い慕う杏寿郎からの激励の言葉に更紗はフワリと笑い大きく頷いた。
「はい!全力で天元君の鈴を奪ってまいります!」
そんな2人の遣り取りを眺めていた天元は唇の端をニッと吊り上げて木刀を構える。
「そう簡単には取らせねぇって!その前に俺が姫さんの鈴、かっぱらってやるから覚悟しろよ」
「私も同じことを考えていました。天元君の胸、お借りします!」
そうして更紗も木刀を構えると、2人同時に地面を蹴ってついに試合が開始された。