第16章 柱と温泉
更紗が聞いた話によると、行冥は物凄く強いらしい。
柱の中でもその戦闘力は群を抜いており、誰もがその強さを認め尊敬される存在だと杏寿郎が教えてくれたことがあった。
そんな強さを誇る行冥は審判へとまわされたが、本人は特に不満はないようでいつも通り手を合わせて涙ながらに拝んでいる。
だがその念仏は更紗に向けられており、泣いているのは行冥なはずなのに更紗が涙を流したくなった。
「更紗……すごく言いにくいんだけど、宇髄さんと不死川さん、冨岡さんが更紗と闘う気満々な匂いがするんだ。クジなのに変だよな」
クジを引き終えた炭治郎は顔色の悪い更紗の背をさすってくれるが、放った言葉は穏やかではない。
「……クジで良かったです。でなければ、私はきっと袋叩きにされていたでしょうから。3名の方のご指名があろうと闘うのはお1人なので不幸中の幸いと考えます!ではクジを引いてきますね」
全員がクジを引き終わり袋の中に入っていた紙を握りしめる中、更紗は気を取り直して残った紙を袋から取り出したが、その場を離れる前にしのぶからもう1つ小さく折られた紙を手渡された。
「はい、更紗ちゃんへ皆さんからの恋文です」