第16章 柱と温泉
杏寿郎に導かれ、もうすぐ鈴取り合戦第2幕が開催される麓へと到着する。
まさか大掛かりな鬼ごっこからこんな事態になるとは誰もが想像すらしていなかったので、全員が頭の先から爪先まで緊張を走らせている。
特に継子でも柱と繋がりもない圭太と村田に至っては、早々に鈴を取られていた方が気が楽だったのではと思うほどに顔は悲壮感に満ち溢れ心配になる。
そんな面々の緊張を少しでも和らげようと杏寿郎は今日1番穏やかな笑顔を向けた。
「命が奪われるものでもないので、そう緊張する必要はない。君たちが柱と闘う姿を見る剣士たちの手本となってくれればいい。柱以外にも強い剣士がいると分かれば士気も上がり、鬼殺隊全体の質の向上にも繋がるからな」
意外なところで剣士たちの質の向上に貢献出来るわけだが、それを良しと考える者もいれば今から行われる合戦に恐怖を抱く者もいる。
圭太や村田はもちろん……善逸は恐怖のあまり気を失って目を閉じながら器用に移動している。
「更紗、こちらへおいで」
「?はい、どうされましまか?」
圭太と村田をなぐさめていた更紗は1番前を歩く杏寿郎の元へ場所を移しその顔を見上げ言葉を待った。
すると耳元に顔を寄せられ、杏寿郎には珍しい小声で恐ろしい言葉で鼓膜を刺激した。
「君は偉く人気者でな、宇髄を始め不死川やあの冨岡まで君の鈴を狙っている。クジで対戦相手が決まるが誰が相手だろうが全力で更紗を倒しに来る。俺も鍛錬とは別に、君とは全力で一度闘ってみたいと思っていたしな」
「……皆さんこそ私に容赦がないように思います」
悲しい呟きを終えた頃、麓へと到着した。
そこには鈴を取られた全ての剣士たちと、8名の柱が待ち構えていた。