第16章 柱と温泉
そして首を傾げ続ける義勇の前に笑顔のままちょこちょこと戻ると、蔓を結び付けた手を握りしめもう一度何故か頷いて義勇を見つめる。
「これで今回は私が罠をしかけて冨岡様が私を取り逃したというかたちになります。実弥さんも同じような罠で足止めをしたので、この状況を見るとそれを知っている人は自ずと私の仕業だと思い込むはずです!……冨岡様には冨岡様の想いがあると思いますが、鬼殺隊におられるということはどなたかの想いを繋げるためではありませんか?私も大切で失いたくなかった人の想いを繋げるために……杏寿郎君からの恩を返すためにここにいます」
言葉を切る更紗の表情はその失ってしまった人を思い浮かべているのか、酷く沈み瞳は涙の膜が張っている。
この表情を義勇は嫌というほど鬼殺隊に属してから何度も見て来て、自分もそんな表情をしていた覚えがあった。
失いたくない……ずっとそばで笑っていてほしかった人を失い嘆き悲しむ表情。
「若輩者の私の言葉では冨岡様の心を動かすことは出来ないかもしれません。ですが、この合戦には失った人たちの想いを繋げたいという意志が込められているように思うのです……どうか冨岡様も大切な方の意志を繋げていただきたく思います。並々ならぬ努力を重ねて柱になられたはずです……諦めないで」