第16章 柱と温泉
更紗は気付かなかったのだ。
今まで気配で杏寿郎や天元、実弥が鈴を剣士たちから奪い取っているのは感じ取っていたが、その誰もが木刀すら使用せず素手で奪っていたので勿論技を使用していなかった。
更には実弥の説明を違う方向に解釈して、木刀での打ち合い又は素手のみがこの合戦で許されている攻撃手段だと思い込んでいた。
「……使って構わない。よくそれで今まで逃げきれたな」
「まさか使ってよかったなんて……逃げきれたのは圭太さんと罠のお陰様でして……でも乱用できないのが悩みだったので技を使えるのはとても有難いです!ありがとうございます」
更紗の言動全てに疑問を感じ呆然と立ち尽くす義勇に更紗は頭を下げると、思い出したように袂から実弥の足を絡め取らせた縄のようなものを取り出して、再び義勇へと歩み寄りその手首に結びつけた。
「これはなんだ?こんなものなくても俺は月神を追いかけない」
「これは木の蔓です。追いかけてこられないからこそ役に立ちます!」
そう言って更紗はニコニコと笑顔をたたえたまま、近くの木へとその蔓のもう片方を結びつけ満足気に1人頷いた。
もちろんその間も義勇はされるがまま、ただ更紗の理解しかねる行動を見守っている。