第4章 鍛錬と最終選別
ひとしきり泣いて落ち着き疲れたのだろう。
少し促すと素直に大人しく更紗は自分の部屋へ戻り体を休めに行った。
杏寿郎は羽織を脱ぎ皺にならないように丁寧に畳むと、大きく伸びをしてその場に寝転がった。
伸びをした時に頬に触れた隊服の肩口は、まだ更紗の涙で少しだけ濡れている。
「はぁぁぁあ……!!いつからだ?!いつから俺はこんな気持ちを……」
思い返すとすぐに心当たりが見つかったようだ。
あの芋羊羹事件だ。
(よもやーー!!芋羊羹とは……ふむ!むしろ俺らしくてよいではないか!!)
いいらしい。
世の中では贈り物をした時に見せた笑顔やら満天の星空に見とれる横顔、とか女性の魅力的な顔は山ほどある。
芋羊羹……芋羊羹はさておき、確かに食事を美味しそうに食べる女性の顔も魅力の1つに変わりはない。
「だが身内を鬼に殺された訳でもなく、代々我が家のように鬼狩りを家業としているのでもないのに、純粋に人を救いたいと想える心がただただ愛おしい……」
杏寿郎は右腕を目の上に乗せ、気持ちを切り替えるかのように大きく深呼吸すると立ち上がる。
「風呂に入って寝るとしよう!」
いつもの明後日の方向を見つめる瞳で、何か過去の思いを振り切るかのように居間を後にした。