第16章 柱と温泉
鈴取り合戦で鈴を1つも取っていない義勇を2人が呆然と見つめていると、義勇は距離を空けたまま何をするでもなく2人を静かに見つめ返した。
そんなよく分からない膠着状態が続いていたが、さすがにこのままではただ時間だけが過ぎてしまうと危惧した更紗が現状打破を試みる。
「冨岡様は鈴を取らないのですか?」
「……俺は柱じゃない。ただ招集されたのでここに来ただけだ」
初対面から言葉数は少ないとは思っていたが、前後の言葉があまりにも少なすぎて更紗も圭太も意味を理解出来なかった。
だが以前、手の甲に刻まれる階級を杏寿郎に見せてもらった時の言葉を思い出した。
『様々な思いを刻まれた階級に抱いている』と。
杏寿郎にとっては誇りだったが、目の前にいる義勇はそれとは別の感情を抱いている可能性が高い。
聞けば教えてくれるかもしれないけれど、あまりゆっくりしていると他の柱たちに見つかってしまう。
そんな状況だが自分を柱ではないと言い切る義勇が気になりこのまま立ち去ることが出来ない更紗は、圭太が驚き自分を見つめる視線を気にせず木刀を下ろして義勇の目の前まで歩いていった。
「私の鈴を腰に結わえませんか?」