第1章 月夜
「お待たせしました。もう大丈夫です。案内致しますので、着いてきてもらえますか?」
傷の痛みがまるでないかのように、立ち上がる姿に煉獄は目を剥いた。
「君は一体何を……それより、傷が酷いのだ!早く俺に捕まってくれ、時間がない!!」
そう言うと煉獄は自らの羽織を脱ぎ、更紗の背中の傷を圧迫するように巻き付けると体勢を低くした。
「あの、傷も大丈夫ですし、自分で走れっ!?ひゃっ!!」
「失礼する!」
返事を聞く前に、煉獄は両手で抱き上げ初動から物凄い速さで移動し始めた。
いきなり抱えられ、今まで経験したことの無い速度での移動に目を白黒させるが、異論を唱えられる雰囲気では無いため、そのままで道案内を開始する。
「あの屋敷で間違いないか!?」
「は、はい!あの屋敷です!」
更紗が必死に息を切らせながら走った距離を、煉獄は一瞬でそれも人を1人抱えて息切れもせずに駆け上がった。
これではどちらも相手に対して疑問しか湧いてこないだろう。
((一体何者??))
互いが互いに疑問を相手に抱きながらも、これよりも優先する事があるので口には出さず、屋敷のまえに到着した。