第16章 柱と温泉
現に実弥から離れようと山中を走っていたのだ。
それにも関わらずそれをものともせず音もなく忍び寄ってこうして更紗に王手をかけるのだから、柱とは恐ろしい。
「そうかよ。お前、下弦の鬼倒してたよなァ?それに加え甲に昇格、柱になるための基準を満たした上に痣者なんだってなァ?」
そう言いつつも木刀を構える素振りもない。
実弥からすると更紗の実力などその程度のものと認識されているのだ。
「柱になるための基準を満たしていようと痣者であろうと、それほどの実力がないのでこのザマです。私の鈴を実弥さんは素手で奪おうとされていますし」
真実を言ったまでだが……実弥は腰に差したままだった木刀に手を掛け抜き取る。
「そりゃあ悪ィことしたなァ。煉獄の継子相手に素手なんて失礼な話しだ。ただ……失望させんなよ!」
「そう言う意味では!」
もう遅い。
挑発するつもりなど更紗にはこれっぽっちもなかったのに、実弥は挑発だと受け取ってしまった。
更紗の言葉を最後まで聞くことなく実弥は木刀を振りかぶり利き手である方の右肩を狙うが、杏寿郎との打ち合いを反芻させてどうにか受け流す。