第16章 柱と温泉
鬱蒼とした山中でコソコソと忙しなく更紗が動き回っていると、近くで悲痛な叫びと聞き覚えのある怒号が響いた。
「こんなに近くで?!でもまだこちらには気付いてなさそう……あれ、柱の方って下弦の鬼を倒して柱になってますよね?つまり下弦の鬼より上の力量……早く離れないと」
絶望的な事に気付いてしまった。
いくら鈴を取れば取るほど居場所が分かりやすくなると言えど、下弦の鬼よりも強い柱からすればそんなことは些末な問題だったのだ。
時間が経つごとに剣士たちの母数自体が減ると、居場所を知られたとしても少数の格下な剣士など脅威になりえない。
「しかも天元君は聴覚が優れてるので隠れてても心音で居場所バレてしまいそう……?!」
突如背後に殺気を覚え咄嗟に横へ飛び退いて振り向きざまに木刀を構えると、こちらに気付いていないとばかり思っていた実弥が更紗の首元の鈴へと手を伸ばしているところだった。
「近くに俺がいるの気付いてたくせに、他の柱のこと考えるとは偉く余裕じゃねぇかァ!俺じゃあ役不足ってことかよ?」
「そんなわけないですよ!逃げながら色々思案していただけです。ただでさえ師範と音柱様に追われている身なので」