第16章 柱と温泉
その中にはもちろん更紗を屋敷で見送ったはずの杏寿郎の姿もある……しかもその時は着流しだったのにきちんと隊服を着用して羽織も肩に掛けられている。
(私の方が早く出たはずですよね?!しかも最短の道でここまで来たのに……遠回りしても私を軽々と追い越したということですね)
杏寿郎に恐れを抱きながら見つめていると、距離がある程度離れているにも関わらず更紗を見つけた杏寿郎は小さく笑ってみせた。
その隣りにいる天元も杏寿郎の視線を頼りに更紗を発見してニカッと笑いかけてくれる。
思わず手を振りそうになったが、実弥が他の柱より1歩前へ進み出てきたのでどうにか思いとどまれた。
「全員届けられた鈴を首にぶら下げろォ!今から俺たち柱全員とお前らで鈴取り合戦を行う。使用出来るのはこっちで用意した木刀のみ、俺らの首にかかってる金の鈴を全部取ればお前らの勝ち、お前らの銀の鈴を俺らが全部取ればお前らの負けだ……さっさとぶら下げねェか!」
静かに説明を聞いていた剣士たちは若干の理不尽さを感じる実弥の怒号に、慌てて鈴を取り出して各々の首へ垂れ掛けさせた。
(やっぱりこんなことだろうと思いました……杏寿郎君が教えてくれなかったのは他の剣士と継子との間で公平を期すためだったのですね)
鈴を首へと取り付けながら更紗は小さくため息をこぼして実弥の次の言葉を待った。