第16章 柱と温泉
少し雲行きが怪しくなってきた……怪しくなってきたが、自分たちの察しを信じて2人は引き続き天元の言葉に耳を傾けている。
「互いに好いてるくせに何ヶ月も関係進まねぇし、進んだと思ったらいきなり婚約者ときた!未だに姫さんは人前で煉獄に抱き着かれたら顔真っ赤にして、それを愛でてる煉獄の表情が」
「宇髄?君は何が」
思わず杏寿郎は天元の言葉を切ったが、その直後のからかいのない満面の笑みの天元に言葉が続かなくなり、その満面の笑みを首を傾げながら見つめた。
「派手にいいなって思った!前に雛鶴が、上弦の鬼を倒したら一線を退いて、普通の人間として生きよう。どこかでけじめをないと恥ずかしくて陽の下をあるけないって言ったんだ。その時はあんまりピンとこなかったがお前ら見てっと、あぁ、陽の下っつっても何も太陽だけじゃなくって、人にも当てはまんのかもなぁって思ったわけよ」
「太陽……私にとって杏寿郎君は太陽のような方ですが、天元君もですよ。いつも明るく導いて下さいます!奥様たちも皆さん優しくて……」
天元が何を言わんとしているのか分かってしまい更紗の目の奥にツンとした痛みが走るが、懸命にその痛みに堪えて先の言葉を飲み込んだ。
人の抱えている事情や感情に、考え無しに踏み込んでいってはいけないからだ。