第16章 柱と温泉
突然の告白に杏寿郎は目を丸くした。
元々任務や柱合会議などで顔を合わせた際は他愛もない会話もしていたが、互いの生い立ちの話しなどはしたことがなかったので、天元に妹がいた事実は初耳だったのだ。
「それは……」
聞いていいものか迷った末に尋ねようと口を開いたところで、廊下を慌ただしく走る音と部屋の障子が勢いよく
スパーンッ!
と開く音に止まってしまった。
杏寿郎も天元も驚き開け放たれた障子の方へ顔を向けると、そこには色の薄くなったままの瞳に涙を溜めた更紗が立っていた。
突然の来訪に声を出せずにいる2人をよそに更紗はズンズンと部屋の中へと足を動かし、2人のそばに座り天元の左手を見てポロリと涙を零した。
「よかったです……鬼殺隊を離れるだけでも寂しいのに、天元君の左手も戻ってなかったらどうしようかと……せめてこれが夢でなくてよかったです」
どうやら更紗は目が覚めて杏寿郎がそばにおらず、天元の左手が本当に元通りになっているかの確認が出来なかったので、慌てて家人に2人の居場所を聞いて駆け付けたようだ。
そして今自分の目で左手の健在を確認出来、安堵したことにより涙が流れたのだろう。