第16章 柱と温泉
「すげぇな……なんか姫さんがどっか遠くの存在になりそうで怖ぇわ。左手の件もあるし」
天元は色の薄くなった瞳でいつも通りに笑っていた更紗の顔を思い浮かべながら、左手を閉じたり開いたりして違和感が全くないことに有難みを感じると共に胸にチクリとした痛みを感じた。
その様子を杏寿郎も眺めて、気持ちよさそうに眠っている更紗の顔を思い出しこちらは笑顔を浮かべる。
「どこにも行かせないし、あの子自身どこかに行くつもりもないから大丈夫だ!これからも更紗を見守ってやってくれると助かる!……寝る前にひっそりと泣いていたのでな。宇髄が鬼殺隊を離れることが寂しいのだろう」
「え、マジで?俺や嫁たちは元々これからも世話なるつもりだったんだが……すっげぇ後ろ髪引かれるじゃねぇか!派手に可愛すぎんだろ!嫁との約束じゃなけりゃ留まってた自信あるわ」
せっかくひっそりと涙を流していたのに、天元本人に知られることとなってしまった。
しかしこの部屋にいない更紗には知る由もない。
それでもどんどん更紗の話題は進んでいく。
「奥方との約束だったのか?それを知っていたら……どっちにしても泣いていそうだな!」
「そりゃあ申し訳ねぇ気持ちもあるが、嬉しいこった!俺の妹は全員死んじまったから、余計に可愛いって思うし……構いたくなる!」