第15章 箱庭に流れる音色
遠くから見ていても体全体泥だらけであったが、近くに来て杏寿郎の目に映ったのは痛々しい手だった。
素手で瓦礫を退かしているものだから、泥汚れだけでなく擦り傷切り傷で埋め尽くされている。
目線を合わせるために更紗のそばにしゃがみ込んでも探す手は止まらない。
「更紗、一度手を止めてこちらを見れるか?」
その声にようやく瓦礫を掘り起こす手を止め、ゆっくりと杏寿郎へと顔を向ける。
その顔は涙と泥に加え手で擦ったのか小さな傷がいくつも着いていた。
見ているだけで胸が締め付けられるような悲壮に満ちた頬に触れ、流れる涙を親指で拭ってやる。
「君の姿を見て宇髄や奥方たちが心配している」
「でも……このままじゃ天元君は……私のせいで今まで血の滲む思いで築き上げてきたものを失っちゃう……そんなのヤダ!」
確かに柱になるには、運や生まれ持った才能に加え並々ならぬ、それこそ更紗の言うように血の滲む日々の努力が不可欠だ。
柱となってからも隊士を導き手本となるための力量が必要とされるので、片手をなくしてしまっては柱として……鬼殺隊に籍を置くことは困難だろう。
片手で続けられるほど、鬼狩りは甘くはないのだ。