第4章 鍛錬と最終選別
「ーーっ!!更紗?」
「すぐに治りますので、そのままに」
涙で濡れた瞳に見つめられ、杏寿郎の時が止まる。
抱き締めたくなる衝動を必死に抑え、左頬に伝わる温かい光に意識を集中させる。
ほんの数秒が長く長く感じたが、更紗の手と体が離れたことに安堵と少しの寂しさを感じた。
「泣いてばかりで、治すのが遅くなってすみません……」
せっかく止まっていた涙も、不甲斐ないという気持ちからまたとめどなく流れてしまう。
(どうしよう、帰ってきたら笑顔でお迎えする予定でしたのに)
更紗も更紗で頭の中は大混乱だ。
こんなはずではなかったのに、涙が止まらなくてどうすればいいのか分からないと言った様子だ。
「すぐに謝らなくていい。謝るのは相手が嫌な思いをした時だけだ」
「はい……」
また泣いてしまった。
(……今のは俺が泣かせたことになるのだろうか?)
もう杏寿郎が泣きたい気分になってきてしまった。
今まで家族と鬼を滅殺する事だけに心血を注いできた男は、恋やら愛やらに全く興味を抱かなかった。
それがこんな所で仇になるとは思ってもみなかっただろう……