第4章 鍛錬と最終選別
「更紗」
名前を呼び、頭をフワッと抱き締めて自分の胸に誘う。
更紗は何が起きたのか分からず硬直しているが、杏寿郎の確かな心臓の音を聞き体の力を抜いた。
「俺は生きている。傷も君が治してくれたから、この通り元気だ。だから、もう泣かなくていいし謝らなくていい。すまない、出て行く前にもっと配慮してやるべきだった」
そうなのだ。
更紗は数日前に、自分を助けてくれた人を亡くしたばかりだった。
状況はこの前と少し違うが、更紗からすればまた目の前から大切な人が消えるのではないかと、不安で不安で仕方なかったのだ。
「俺は居なくならない。だから、もう悲しまないでくれ」
更紗の頭を抱きとめている腕の力を僅かに強めると、それに応えるように更紗は自分の腕を杏寿郎の背に回して抱き着いてきた。
(あぁぁぁーー!!もうどうしろと言うのだ?!よもや拷問ではないだろうか?!)
だが、ふと思い直した。
(更紗は幼い頃に両親から無理やり引き離されている。だとすると、子が親に甘えている感覚なのか?)
そう思うと合点がいく。
更紗は親の愛に飢えており、その温もりをずっと求めているのだ。