第15章 箱庭に流れる音色
風前の灯の更紗に杏寿郎の胸が暗く沈む。
忍の解毒剤が効かず、また更紗の力でさえ鬼の毒には効力を発揮していないのだ。
しのぶがここにいれば対処してくれるだろうが、都合よく居合わせるなんてこともない。
ただ苦しむ姿を見ることしか出来ず杏寿郎の瞳が無力感から悲しみに揺らぐが、皆のそばに行くことが更紗の望みならばと必死に笑顔を繕って頷いた。
「分かった。連れて行ってやるから……」
「煉獄さん!そのまま動かないで寝かせてやってください!」
声のする方へ顔を向けると、炭治郎が小さくなった禰豆子に背負われてこちらへ近付いて来ていた。
「宇髄さんも善逸も伊之助も怪我はしていますが元気です!あとは更紗だけです。雛鶴さんたちは宇髄さんのところへ…… 更紗は任せてください!」
炭治郎の言葉に嫁たちは顔を見合わせ次々と更紗の頬や頭を撫で、後で必ず会いましょうと声を掛けて天元の元へと駆けて行った。
それを見送り杏寿郎は炭治郎に従って、更紗を胡座をかいた自分の足の上へゆっくり寝かせてやる。
「竈門少年、これでいいのか?」
炭治郎は禰豆子の背から降りると、その背をそっと押して更紗の方へと誘った。