第15章 箱庭に流れる音色
天元は背後をチラと確認すると、更紗の頭をサッと撫でてから抱えていた腕を何かに向かって振りかぶった。
「え?」
「姫さんを頼む!こっちの2人は派手に任せろ!」
放り投げられた際、天元の左腕や左目に兄鬼の血の刃が襲いかかるのが目に映り更紗は堪らず手を伸ばすが、届くはずもない。
「天元君!ヤダ!死なないで!」
その声が届いたのか天元は身体中に傷を負いながらも笑顔を残して、炭治郎と善逸の方へと足を向けた。
緩慢に映る世界の中、血の刃から2人を守る天元の姿をただ見ることしか出来ず更紗の瞳から涙が溢れ出すが、血の刃が自分の方へと迫ってくるのが目に入り、いずれやって来る痛みに備えて瞼を閉じ身を固くした。
しかし先に訪れたのは温かく包み込んでくれるような衝撃で……。
恐る恐るそれを確認しようと更紗が目を開けると、フワリと揺れる太陽のような髪と力強くも優しい瞳がすぐそこにあった。
「遅くなってすまない。後は任せろ!」
更紗は思いもしなかった人物……杏寿郎の登場に一瞬で体の痛みを忘れて、迫り来る血の刃をものともせず弾き飛ばす様を見ていた。