第15章 箱庭に流れる音色
厳密に言えば兄鬼が言うような藤の花の毒は練り香水には入っていない。
稀血である更紗が万が一夜に1人で出歩くことがあった場合、鬼に襲われないようにと与えられたものだ。
だが毒が入っていない代わりに、藤の花の成分や香りがふんだんに凝縮され生成されている。
それは数えるのも途中で諦めてしまうほどの数の藤の花が使われた特注品、鬼にとっては僅かな量であっても毒となるだろう。
思いがけない更紗の攻撃にたまらず膝をついた兄鬼へ、全員がその頸を斬らんと日輪刀を振りかざしながら間合いを詰めた。
「姫さん、よくやってくれた。そこで待っててくれ……すぐに終わらせてやる!」
役目を終えたとその場で崩れ落ちる更紗へと悲しげに揺らせた瞳を向けたかと思うと、天元は2人とおなじように……それこそ鬼のような形相で兄鬼の頸へ当てがった日輪刀に力を込める。
更紗に限らず全員が疲労困憊の中、懇親の力で振るった刃は確実に頸の中心部へと進んでいき、あと少しというところで炭治郎の額の傷がまるで痣のように色と文様が変化していった。
それを見ていたのは更紗と兄鬼だけ。
しかしこの場で生きてその状況を見ていたのは更紗だけとなった。