第15章 箱庭に流れる音色
更紗は右手で隊服のポケットに手を入れながら瞬時に兄鬼の前へ移動して、左手に括りつけたままの日輪刀で鎌を弾き、ポケットから右手を出して柄を握り腹を真横に切り裂く。
「てめぇ……そんなんで俺が止められると思ってんのかぁ?それなら笑い草だがなぁあ」
「そこまで私は……馬鹿でも考えなしでもありませんよ」
毒を受けた状態で激しく動いた影響か、更紗の顔色が一気に悪くなっていくが、その瞳は死の淵にあらず爛々と光を灯していた。
更紗は既に塞がってしまった兄鬼の腹を再び斬り付け、右の手のひらをその傷が塞がる前に、まるで薬を塗り込むかのように強く擦り付ける。
「貴方たち鬼はいつも人の命や想いを嘲り笑い踏みにじる。そんな人の想いが詰まったモノで足止めされる気分はどうですか?」
兄鬼はもちろん、天元、炭治郎、善逸も何が起こっているのか全く理解出来ず立ち尽くす中で、更紗が何をしたのか1番初めに理解したのは兄鬼だった。
「どこに隠し持ってやがったァ?藤の花の毒なんてよぉ」
更紗が兄鬼の傷へ塗り込んだものは藤の花の成分が凝縮されたもの。
杏寿郎が更紗の身を案じ、しのぶへ願って特別に作ってもらった藤の花の練り香水だった。