第15章 箱庭に流れる音色
そんな戦闘準備万端な更紗の隣りへと、兄鬼の攻撃を弾き飛ばした天元がやって来た。
「このじゃじゃ馬姫!もう本当、その根性には惚れ惚れするが命令には従ってもらう……つっても、いざとなったら飛び出すのが姫さんなんだろうな。とりあえず今はじっとしてろ、我慢出来る間は動くなよ!」
そう言い残して天元は戦闘へと戻っていってしまった。
命令と言われれば従わざるを得ないが、強制はされなかった。
今は待機命令を出されているが気を張り詰めたままだ。
しかしそれを途切れさせると同時に全身の毒の痛みがまわり動けなくなるだろう。
そうならないため……有事の際にはすぐに対処出来るよう足を踏ん張って、括りつけた日輪刀は外さないでいた。
目の前では善逸が足を犠牲にして強力な霹靂一閃を、炭治郎は炎柱の手記で学んだヒノカミ神楽を、天元は爆発を伴う音の呼吸を駆使して兄鬼を追い詰めている。
優勢に見えたが、兄鬼は一瞬の隙をついて炭治郎の喉元に鎌を振り上げる姿が更紗の目に映った。
その時、更紗の脳裏に今まで救えなかった人の顔が瞬時に浮かぶ。
あの屋敷の奥方から始まり、命を張って自分を助けてくれた男性、棗、その他にも任務先で救助が間に合わなかった人。
どの現場でも血や涙が多く流れていた。
ここをそんな現場にしたくない。
これ以上この場で血や涙を流させたくない。
思いのほか天元のいざと言う時はすぐにやってきたようだ。