第15章 箱庭に流れる音色
だがこちらは刃も向けて戦闘準備が整っていると言うのに、先ほどから女の鬼が男の鬼をお兄ちゃんと呼びながら、自分がどれだけ痛めつけられ辛い思いをしたのかを延々と訴え続けている。
兄鬼は天元の攻撃を躱し、そんな愚図り続ける妹鬼の頭や体をくっつけてやりながらも、お前は頭が足りないと馬鹿にしたかと思えば可愛い顔を大切にしろなど呑気に会話を続けている。
その様子が更紗にとってはあまりにも腹立たしく、兄鬼が天元へと向かって行くと同時に妹鬼の間合いに入って頸を斬り捨てるが、やはり頭が床を転がるだけで体は崩れていかない。
「なんなのあんたたち!さっきからどうして私の頸ばっかり斬られるのよ!お兄ちゃん、こいつも早く殺して!」
「先ほどから怒っていらっしゃいますが、頸を斬られるようなことをしてきたから、私たちに斬られるのですよ」
向かってこない妹鬼の体を斬りつけて時間を稼ぎ、天元へと視線を巡らせると、兄鬼が鎌のようなものを天元の頭部へと振りかぶっているのが見え、咄嗟に2人の間に滑り込み、その斬撃を日輪刀と自らの腕で防ぐ。
「姫さん!何してんだ!」
天元の叱責がまるで遠くで聞こえるような感覚に陥ると共に、斬られた傷口が焼かれるような激しい痛みをもよおした。
更紗は考えるより先に傷口から吸えるだけ血を吸い取って床へ吐き出し、天元へと向き直る。