第15章 箱庭に流れる音色
(十二鬼月は目をどこかしらに発生させるのがお好きなのでしょうか……)
巷に溢れる怪談話に出てくる化け物の様相な帯に身震いしそうになるが、つとめて冷静を装い笑顔で様子を伺っていると、ようやく返答が返ってきた。
『あんた馬鹿にしてんの?!柱でもないくせにあたしに勝てるわけないでしょ!いいわ、そこまで言うならお望み通り取り込んであの方に引き渡してあげる!』
「それはありがたいお話しです。ではお言葉に甘えさせていただき……失礼しますね」
そう言って更紗は帯を壁から解放してから日輪刀をさやから抜き出し自ら帯の中へと、まるで部屋に入るように足を踏み入れていった。
全て体が帯に沈むと同時に更紗の意識が持っていかれそうになるのを唇を強く噛んで痛みで覚醒させる。
帯の中からでも部屋の様子を確認することが出来たが、何分帯は平面なので狭苦しいようで身動ぎしながら動ける空間を確保する。
そうして帯がシュルシュルと捻れて移動を始めると、視界は帯の模様だけとなり長屋から遠くかけ離れていった。
更紗の視界が帯の模様で満たされた時、長屋の部屋は一気に人の気配をなくし、僅かに漏れ出ていた鬼の気配も消えた。
それを確認した天元と善逸は顔を見合せ、通常の人では持ちえない超人的な聴覚を使って追跡を開始した。