第15章 箱庭に流れる音色
藤の花の家紋の家で与えてもらった部屋の布団へ雛鶴を寝かせ、帯との闘いで傷付いた体を更紗が治した。
その頃には鬼が身を隠す朝が来たと告げるように、窓からは日の光が降り注ぎ辺りを明るく照らし出す。
その眩しさに目を細めていると、静かな部屋の廊下に繋がる障子が音もなく開き、更紗と雛鶴が待ち望んでいた天元が姿を現した。
「はぁ……2人とも無事だな。雛鶴の容態はどうだ?落ち着いたか?」
「お待ちしておりました。雛鶴さんの容態は安定して今はお休みになられています……私は席を外しますので、そばにいてあげてください」
天元が部屋に足を踏み入れると同時に更紗が立ち上がり、一礼して開かれたままの障子へと足を動かすと、すれ違いざまに天元に肩をポンと叩かれた。
「すまねぇな。すぐ向かうから別の部屋で待っててくれ。そこでこれからのことを話す」
「かしこまりました。私も1つ提案がございますので、その時にお聞きください」
雛鶴を運んでいる際に向けた笑顔を天元に向けると、やはり嫁と同じく嫌な予感を感じたのか引きつった笑顔が返ってきた。
「あんま聞きたくねぇが……分かった」
その引きつった笑顔に少しの罪悪感を抱きながら、もう一礼して更紗は部屋をあとにした。
その時に目に映ったのは、雛鶴を強く抱きしめる天元の姿だった。