第4章 鍛錬と最終選別
2人は杏寿郎の姿が見えなくなるまで見送り、暗くなり始めた空を見上げて家の中へ戻って行った。
「僕達は夕餉の時間までにお風呂を済ませてしまいましょう!父上は先程入られていたようなので、更紗さん、お先にどうぞ!」
まさかこの家の人に先にお風呂へと言われるとは思っていなかった更紗は、慌てて首を横に振った。
「いえ!私は包帯も巻き直したりしたいので、千寿郎さんが先にお入りください!お風呂は家の方が先に入られた方がいいです!」
何度か互いにどうぞどうぞと譲り合っていたが、最終的に千寿郎が折れて風呂場へ向かって行った。
そうして更紗は自分の部屋へ一旦戻り、窓を開けて庭を眺める。
千寿郎といればあの可愛らしい笑顔で不安もあまり感じないが、1人になると先程の千寿郎のように不安が込み上げてくる。
(杏寿郎さん、どうか無事に帰ってきて下さい。お姿が見えないと不安になります……)
窓から見える月に祈った所で何も変わらない事は分かっているが、そうせずにはいられなかった。
だが、いつまでも感傷に浸っているわけにもいかない。
着替えを用意して、千寿郎が風呂から出てくるのを居間で待つ事にした。