第15章 箱庭に流れる音色
「ーーっ!!う……あ」
鬼舞辻の言葉が途切れると同時に更紗の左手首を耐え難い痛みが襲った。
それでも鬼舞辻から視線を逸らさず、僅かに視界に入るだけの情報のみで自身の左手首を確認すると、先ほどの女将のように本来向くはずのない方向に折れ曲がっていた。
「くっ……離して!」
痛みに抗いながら無駄だと頭で理解しながらも日輪刀で鬼舞辻の腕を斬り落とそうと刃を振るうも、どういうわけか薄皮1枚切れるだけで終わってしまった。
「五月蝿い、騒ぐな。貴様如きの刃など私に届くはずもないだろう」
絶望的な状況が更に絶望で塗り重ねられる。
日輪刀を握る右腕も鬼舞辻によって鈍い音が鳴らされ、強く左手首を引かれ障子の中へと強制的に誘われていく。
流したくなくとも痛みから自然と涙が溢れ、頬を伝って視界がどんどん揺らいでいった。
「うぅ……ぐっ……絶対に行かない……離して!」
更紗は何かしらの決意の灯った瞳で鬼舞辻を見据えながら折れた右腕を振り上げるが、もう鬼舞辻はそれにすら視界に映さず反応もしない。
「日輪刀で斬れるのが鬼だけだと思わないで」
「なんだと?」
ようやく反応を示した時には既に刃は振り下ろされ、腕を斬り落とそうとしていた。
鬼舞辻の腕ではなく、更紗の腕を。