第15章 箱庭に流れる音色
ここで杏寿郎の様々な状況を想定した注意事項の1つが役に立った。
『花魁は普通の人間が望んですぐに会える女性ではない。会わせてやると言ってくる輩には気をつけろ』
耳にたこができるほど聞かされていたので、思い出さなくても瞬時に頭に浮かんだ。
だが何かしら情報を持ってるかもしれないので、最大限に警戒してついて行ったら案の定、たどり着いた場所は京極屋ではなく街外れの裏路地。
こんな所に花魁なんていないだろと誰もが突っ込みたくなる場所だった。
この男は自分を誘い出すためだけに嘘をついたのだと確信すると、更紗は気配を消してこっそりその場を後にした。
その後背後から何やら男が叫んでいたが、聞く気もなかったので更紗の記憶にすら残っていない。
そんな無意味なやり取りを強いられながらも気を持ち直し聞き込みを開始するが何も真新しい情報を手に入れられない。
それは天元も同じようで、時間だけが刻々と残酷にも過ぎていった。
「もう人も疎らになってきました……1度天元君と落ち合って……」
そう言って眺めていた京極屋に背を向けた瞬間、何かが落ちる音と共にグシャッとナニかが潰れるような音が更紗の鼓膜を刺激した。