第15章 箱庭に流れる音色
初めて足を踏み入れた世界は、今まで赴いた何処よりも人が多く街を行き交う人々や店は活気に満ち溢れていた。
その雰囲気に負けずとも劣らないほど、木の格子の向こうに佇む女性はどの人も煌びやかで美しく、同じ女である更紗も思わず見とれてしまうが、その笑顔の奥に燻る深い悲しみの色に胸が締め付けられ長く見ることが憚られた。
そんな独特な雰囲気にのまれそうになる自分を叱責し、更紗は天元に任された街の一角、雛鶴が潜入していた京極屋付近で聞き込みを開始した。
「雛鶴花魁のことをご存知ですか?すごく綺麗で教養も身に付けていると聞き、一目見たいと思って足を運んだのですが」
どういう手を使ったのかは不明だが、天元の嫁たちは一般の遊女としてでは無く花魁として潜入したらしい。
そのお陰でこの街で憧れの存在である花魁……雛鶴花魁のことを道行く人や商店の店員に聞くとすぐに答えがもらえた。
だがどれも綺麗だの自分も一目見たいだの、夜を共にしてみたいだの……確信に迫る情報は手に入らない。
またある男は
「女の身で雛鶴花魁を見るためにここまで赴いたのかい?それなら俺が口利きして今から会わせてやるよ。京極屋の女将と親しくしてるからそれくらいわけない」