第86章 ノスタルジー
「霧雨さん元気ー?」
そう言ってひょっこりやって来たのはいつもと違うお客人。
「さくらくん」
「うん。元気?」
「…たぶん」
桜くんはブンブンと私の手を握って振り回した。
……いたい。
いつもみたいに縁側に座り込んでいると庭から急に現れたのでビックリした。
「一人できたの?」
「ううん。あの人が行くからついでに来るかって誘ってくれたの。」
彼が指差す方を見ると、そこには春風さんが何やら大きな荷物を抱えて車から運び出していた。
「さん!!お久しぶりですううー!!」
「…落とさないでくださいね」
春風さんはどさっと大きな荷物をそこに置いた。
「いろいろ入り用だと思ったので、必要そうなものを母に相談して適当に見繕いました!もうほとんどのものは買いそろえてるかと思ったのでミルクやオムツといった消耗品。
あとですねあなたへの出産祝いと夫婦二人への結婚祝いと引っ越されたとお聞きしましたので引っ越し祝い。あと生まれた子への誕生おめでとうプレゼントそれからそれから…」
「あ。はい。もうわかりました。」
途中で止めないとまだまだ話し続けそうなので無理に止めた。
春風さんが持ってきたお祝いとやらで私は埋もれてしまうほどだった。
「一応連絡はしていたのですがあまり長居しても迷惑でしょうし挨拶して帰ります。実弥くんは?」
「それが、さっき天晴先輩と優鈴が来て一緒に買い物に行きました。……赤ちゃんはそこです。」
「う」
部屋の中を指差すと泣きもせずに布団の上でパタパタと足を動かす赤ちゃんがいた。
「わぁ~かわいいですねぇかわいいですねぇ。近づいたら悪いですしここにいますねっ。遠目でもかわいいですねぇ。」
「ハルナを思い出すなぁ。ハカナお兄ちゃんって呼んでほしー。」
二人はにこにこ笑顔で赤ちゃんを見つめていた。