第84章 黎明
チュンチュン、と鳥の声が聞こえて目を覚ました。
そこには見覚えのない真っ白な天井があった。
まだ状況が飲み込めないが、誰かと手をつないでいた。首を動かすと、そこには巌勝がいた。
「目が覚めたか。」
「……」
「運の良い奴だな。死にかけていたというのに。」
私が寝ているベットにぴったりくっつくように彼が横になっていた。
「………夢、か」
「は?」
私は先ほどまでのことを確かに覚えていた。
あれは夢だったのだろうか。
平安時代の夢もそうだが…あれは、私が都合よく見た夢なのか、真実なのか。
「……よく…わからないけど、確かに意識があってはっきりと死にたくないって思ったの。」
「…お前はあと百年は生きそうだ。」
彼は悪態をついた。
「覚えていないか?出血がひどかったから輸血することになったのだ。」
巌勝は起き上がった。
私はまだからだが動かなかった。
首を動かすと、管の先に輸血パックが繋がっていた。巌勝はテキパキとそれをはずす。
「…あなたが血をくれたの?」
「そうだ。」
「どうして…ここに?」
「……実家がこの近くにある。雨の被害がひどく人手が足りないので手伝いにきたのだ。
が、どういうわけか産婦人科で出血のひどい妊婦がいると聞き、血液型が同じでありなおかつ体の大きい私が選ばれたというわけだ。」
巌勝はじとりと私をにらんだ。
「まさかお前がいるとは思わなかった。」
「……あぁ、なるほど」
それならあんな血なまぐさい夢を見たのも頷ける気がした。……まあ、夢の中でも勝ちは勝ちよね。
「でも私、それならなんで出血なんて……」
「……記憶がないのか?分娩室で泣き叫んで気絶したんだぞ。」
「……………………………………………ハッ」
その説明で何となく思い出した。
もうフラッフラで痛すぎて意識も朦朧とした中でギャアギャア叫んだのは覚えてる。
『もう死ぬっ!』『いたいよーいたいよー』『ムリムリムリムリムリムリ!!』『イヤー死ぬ死ぬ!!』『こんなもん出きるわけないでしょーが!!!!!』
…とまぁ、ここらへんの言葉は覚えてる。
なんかトラブルで血が止まらなかったらしく、出血多量でけっこうヤバイところまでいったらしい…。