第83章 月霞
死んでも人は変わらない。
それなら私も変わらない。
「お前はそれでいいのか」
起き上がると、そこには目が六つの鬼…黒死牟がいた。
「もう一回殺してくれるのですか?」
「…お前に関わるのは勘弁だ。行くぞ、霞柱。」
「はい?」
「時間だ。」
そう言われて私は立ち上がった。
一体何なのか、と思うとそこはもう屋敷ではなくてあの広々とした草原だった。
…地獄に理論なんて通じないのでしょうね。
「行くぞ。」
「…どうしてあなたと歩くことになるのでしょう。」
「…行くぞ。」
ああ、無視ですか。
私はむっとしたが彼について行った。
「霞柱よ。」
「はい?」
「お前ならどうする」
は、と立ち止まる。
するとその草原の上に、ボロボロの服を着た女の子が座り込んでいた。
気づくと雨が降っていた。
霧雨だ。
その女の子は、私と瓜二つの顔をしていた。
「_________阿国」
火で燃えたのか着物は焦げている。髪の毛もボサボサで、足は血まみれ。ご飯を食べていないのか痩せ細っていた。
「お前なら、どうする」
「…黒死牟」
「連れ帰るか、放置するか、それとも手を引いてどこか安全な人里に連れて行くか。」
ボロボロになっても阿国の目はらんらんと輝いていた。その目に、妙に引きつけられる。
「……連れて…行けない。あんな子、どうやっても手を取ることができません。」
私は首を横に振った。
阿国は、諦めていない。あの目の奥底に何かがある。死に目を見たのに、生きようとしている。
私とは真反対のものに触れるみたいで、怖い。
「…私は連れ帰り、彼女を鬼殺隊の剣士に育てた。」
“彼女”、という呼び方に少し違和感があった。
「………阿国を鬼殺隊に置くべきではないと、縁壱に言われるまでもなくわかっていたのだ。」
黒死牟はそう口にした。