第81章 見えないもの
「旦那さん支えてあげて」
先生が言うので実弥が動くも、私はブンブン手を振って暴れた。
「おい、大人しく…!!」
「自分で歩けらぁ!!」
「〜っ!!困ったときに『助けて』くらい言えねぇのか!!」
「言ったところでお前が代わってくれんのか!!」
「代われねぇから助けたいんだよ!!」
だがこんな状況で暴れることができるわけもなく、私は大人しく実弥に引きずられた。
「……あーーーーーーーー」
「まだ何か文句あんのかよ」
「誰かに頼らないと生きていけないの辛いなって」
私がそう呟くと、実弥はふっと笑った。
「全部自分でやろうとする“霧雨さん”がずいぶん丸くなったもんだ。」
「…うるさい…こんなの全然私っぽくない…」
「……人間らしくて俺は良い。あんな風に化け物みたいに戦ってるよりは。」
「…馬鹿にしてる?」
「いいや。」
人間らしくって、私は人間だし。
……こうして歩いてるのも、今話してるのも、至って普通のことなんだろう。
こうなるまで、何年かかったことか。
「…実弥」
「ん?」
「ありがとう」
ぽつりと言葉が口から出た。
なんで今のタイミングかと彼も驚いていた。
そうしているうちに、分娩室の前についた。
「じゃあ、えっと旦那さん…」
「立ちあい「させません」え」
私が言うと、実弥は悲鳴のような声を上げた。
「…中にはいるのは私だけで……彼は外で、待たせます。」
「……」
「見られるのやだもん」
「…うん…そう……そうだな」
実弥はガックリと肩を落とした。
…立ち合おうと思ってウハウハしていたのだろうか。
「ね、笑ってくれる?」
「…あ?」
「ふふ」
「なんだよ、こんな時に変なやつだな」
私の笑顔に実弥も微笑んだ。
「じゃあ待ってる。頑張って、な。」
実弥の声を最後に聞いて、私は中に入った。
待ってる、か。
______________もうすぐその時が来るのに。