第81章 見えないもの
気配がした。
まあ…来るんだろうな、とは予想していたけど。
だから意地悪く呪ってやるなんて言ったんだ。
部屋の外にアマモリくんの気配を感じる。彼が来るのもわかっていた。
私はじいっと実弥を見つめた。
「怒ってる?」
「………怒ってない」
「…嘘つき」
思わず笑ってしまった。
なんでバレバレの嘘つくんだろう。
「仲直りする?」
「……あァ」
私はまたじいっと実弥を見つめた。
「ごめんね。」
「俺もごめん。」
「逃げてごめんね。」
素直に言うと、実弥はぐっと私の手を握った。
「逃げてもいいんだ。また会える…だから。」
「……ポジティブだね。何回も言うけど、明日私が死んだらどうするの?」
「…そうだな。ごめん。俺は“正しい”ことを偉そうにお前に押し付けてばかりで、話を何も聞いてなかったんだって…そう思ったよ。」
「………私もひどいことたくさん言った。」
嵐が通り過ぎた後にみたいに私たちは静かだった。
怒鳴り散らしてやろうと思ったけど…今の私にはそんな元気なかった。
「それよりお前、病院にいるってことは具合悪いのか?寝てないと辛いのか?大丈夫か?」
「………」
ベッドに寝転ぶ私に対してそう言ってきたのでちょっとイラッときた。
「……あの、奥様は…」
「じ ん つ う だよ!!!!!」
嵐が過ぎ去ったのは気のせいだったようで、どでかいスコールが降り注いだ。
部屋の外にいるアマモリくんが飛びのいたのがわかる。なんならそばに控えていた看護師さんも飛び上がっていた。
何より、1番驚いていたのは実弥だ。腰を抜かしていた。
「わかったらさっさと帰らんかい!!」
「ちょっ、お、落ち着いてください!!暴れないで!!あんた今どういう状況かわかってんの!?」
「うるせーーーーーーーーーー!!今すぐ神社に行って藁人形に釘打ちつけてやる!!」
「はいそこまでぇッ!!!!!!!!!!!」
私が立ち上がろうとした時、扉がアマモリくんによってスパァンと開け放たれた。
その瞬間、沸騰していた頭が落ち着いて私はぐったりとベッドに横になった。