第78章 昔からの憧れ
ここに来て二週間ほど経った。
連絡を経ったことにより、私のスマホには仕事の連絡しか来なくなった。仕事も引き受けるものは引き受けて、無理だと思うものは断った。
絵を描き続けた。
金になる絵も、ならない絵も。
ただひたすらに描いた。
スケッチブックに描き殴ったり、適当な裏紙に描いたり。お金にならない絵はどんどん溜まっていった。
お金になる絵はそこそこの価値がついた。私はお金になっていく自分の絵を見て、また悲しくなった。
絵が売れても、心は満たされない。
絵が完成しても、もう見せる人もいない。
……そのうち、私は絵を描くことをやめた。
やめた、というか。
そこそこの金がたまった。自分は金のために絵を描き続けてきたのだと、ここで痛感する。
そして、手が動かなくなった。ついに体にガタが来た。もう家の中を歩くのも辛い。
私は一日のほとんどを寝て過ごすようになった。
『カリカリが欲しい』
ある日、おはぎに言われた。
…でも、もう猫用のお菓子は底をついていた。
「……煮干しでいい?」
『カリカリがいい』
声を出すのも辛い。私は起き上がった。
「カリカリはないよ」
『なんでないんだ!』
おはぎはそう言ってプイッとそっぽを向いた。
『最近のお前、遊んでくれないから嫌いだ。』
「そんなこと言わないでよ。私は大好きよ。」
『で、男はいつここに来るんだ。』
私はふと黙った。
おはぎのいう男とは、実弥のことだ。
『もうずっと男に会ってない。いつ男は来るんだ。いつまで俺たちはこんなところに放っておかれるんだ?』
「……」
私はおはぎを抱き上げた。思うように動かない腕を動かした。何年も絵を描くために酷使してきたんだ。動かないのは仕方ない。
「もうすぐ来てくれるよ」
『本当か?』
「…うん。」
私は微笑んだ。
『男にカリカリを持ってくるように言ってくれ。』
「うん…うん。好きなだけ、お菓子食べられるよ。もう少しだからね。」
おはぎを撫でた。
私は、確実に近づいてきているその時をただただ待っていた。