第78章 昔からの憧れ
1人だった私が
言葉を知って、
ご飯の美味しさを知って、
文字を知って、
世界を知って、
友達を知って、
仲間を知って、
恋を知って、
愛を知った。
家族だって知った。
十分だ。
もう、十分。
手のひらから溢れかえったものを、一つずつ落としていくだけ。
そして、1人に戻るだけ。
「何をそんなに焦ってるん…?」
アマモリくんの目に涙が滲んでいることに気づいた。
焦るように見えているのか。時間がないからと、少し行動を急いたかもしれない。
「…このこと、実弥に言わないでね」
「言わへんよ。…お客さんの個人情報、言えへん決まりやねん。」
「そっか。」
よかったと、心の底から思う。
「入居日になったら、またお店に行くね。」
「……うん」
アマモリくんは、乱暴に涙をぬぐった。
……他人に泣かれると、私も泣きたくなる。
鉄珍様の旅館で、スマホから仕事関係以外の人を着信拒否にした。
一人一人名前を確認して間違いのないように。
一言でも話したら、未練残っちゃいそうだからね。
実弥からの連絡なかったし、最後に何か言おうと思ったけどボロが出そうでやめた。
連絡がないってことは、もう私に興味がなくなったのか誰かがここにいることを言ったか。
鉄珍様が何かしたのかもしれない。
おはぎもすっかりこの旅館が気に入ったらしい。
『最近楽しそうだな』
「そうだね」
ああ、そうだ。
この子がいるんだ、まだ1人じゃなかった。