第11章 空は霧雨を落とす
『……と、ここまでが私の人生です。このような長い文になり申し訳なく思っております。
話をもとに戻しますと。
その後のことはよくわかりません。
私は色々あって家を出てしまったものですから。
それでも風の噂に鬼狩りの話は聞いていました。みな変わりないようで安心しました。
子供とは文でやり取りをしておりました。烏が飛んできてくれるのです。
息子は家を無事に継いだようです。今はまだ息災なようで安心しました。
娘は他の家へ嫁いだようですが、産屋敷の名はそのままだったようです。13歳までに名前を変えなければ産屋敷の娘は死んでしまう、と聞いていたのですが…。例外だったようです。
二人とも、私の不思議な力を持ちつつどうにか上手くやっているようで安心しました。
家を出た私はというと、縁壱さん…そう、つまりあなたの痕跡を辿っていました。
一目お会いしたかったのです。お伝えしたいことがたくさんあったのです。
けれどこの文を書いているのは、もうそのようなことはできないからです。
私は25までしか生きられない…。痣者です。
あの惨劇の後に目が覚めると同時に発現しました。
もうあと数日の命だと思います。書けるうちに書けることを書いておこうと思いました。
あなたは本来ならとっくに亡くなっているはずですが、風の噂の中にあなたの話があるのです。
耳飾りをつけた長髪の鬼狩り様の話を、良く耳にするのです。
縁壱さん、これはいつかのお手紙の返事だと思ってください。
阿国は幸せです。
幸せになれと、師範もあなたも同じことをおっしゃいました。
ですが私は幸せなのです。それを、誰かにどうしようもなくわかってほしかったのです。
幸せです。
なるまでもなく幸せでした。
ありがとう、縁壱さん。あなたと遊ぶのはとても楽しかった。いつも側にいてくださりありがとうございました。
もしも、生きていらっしゃるのなら…。あなたこそ幸せになってください。どうか悲しむことなく生きてください。
…それでは、もう手が動きませんので。
産屋敷阿国』