第76章 思い出される過去のアレコレ
傷を舐めれば治るとか、嘘ですからね。
ちゃんとした治療をしないとばっちいです。傷の舐め合いとか言いますけど、あんなの何にもなりません。
治療をしながら改めて彼女の手をじっと見つめると、あまりにも小さくて血の気のない白色で、指も細い。
前世じゃよくもまあこの手で刀を握ったものです。手を豆だらけにして、すぐにそれを潰して血だらけにして…。
またああなるのではないかと、とても恐ろしくなる。
この子はいつでもそう動いてしまうだろう。染み付いたものは離れない。何度も言い聞かせているのに、この子は変わらない。
何がそこまでこの子をそうさせるのか。
実弥くんはあんなにこの子を愛しているのに。伝わっていないのか?いや、伝わっているだろうな。だって気配や感情を読み取ることができるんだから。
しかし家族が欲しいと言うのは驚いた。
かわいそうに。
まだ“あんなもの”にすがるのか。自分が何をされたのか忘れたのだろうか。たとえどんな事情があろうとも、あの家族がこの子を苦しめたことは変わらない。
気づかないのか。
もう自分はたくさんの無償の愛に包まれているってこと。
人の感情がわかるはずなのに。
もしかして……
________まだ、愛を理解していないのか?
トン、と肩を叩かれて顔を上げた。
『もう終わってますよね』
「……はい。すみません。ぼうっとしてしまって。」
指摘されて思わず笑顔で取り繕った。
ああ、もう不憫でしょうがない。
実弥くん、もう本当に時間がありませんよ。
本当に本当に。
すでに手遅れの領域にいます。
君を焦らせたってどうしようもないんだろうけど。あ〜焚き付けたのに、効果なしだったのか…。
ホンモノの家族が欲しいって。
ああ、だめだ。
それはいけない。
あなたのホンモノの家族は、実弥くんです。不死川の人たちです。
だからもう、ニセモノの家族は、霧雨のことは忘れた方がいい。
あの家族にあなたが執着するだけの価値はない。
愛がなんなのか。愛は一体なんなのか。
そんなの知らない。わからない。言葉にできない。だからこの子が心で理解するのを待つしかなかった。
愛なんて与えられなかった、悲しい人生。
それを今取り戻そうとしているさん。
取り戻したって、辛い過去は変わらないのに。