第75章 怒ってます
春風さんも、逃げられないと思ったのか白状し始めた。
「いつか…打ち明けようと思っていました……。あなたが、大人になったら…。でもあなたが大人になる前に私は鬼殺隊を引退しました。」
『確かにそうだったけど…春風さんは何も残さなかった。消えるみたいに私たちの前から消えた。』
「………ええ。……本当は、あなたが真相にたどり着くのではないかと恐れていたんです。」
春風さんはぎゅっと胸のあたりをおさえた。
「あなたに真実を言うには私は嘘をつきすぎたのですから。」
『……』
「あなたは自分で都合の良いような菊を作ったのでしょう。那由多のことなて覚えてもいなかった。あなたの誤った記憶を私は真実として受け入れることとしました。
あなたが自分の記憶を改変してまで、何を守りたかったのか…何を貫いたのか、わからないわけではありませんでした。ですが。」
春風さんの言い分はよくわかる。
「……私はずっとあなたから逃げていたのです。」
彼はようやく立ち上がり、テーブルの上の液体やら床に落ちたカップやらを片付け始めた。
大きな破片を集める姿を見て、私はたまらずしゃがんで手伝った。
「ダメですよ。お腹が大きいのにしゃがんでは。」
『逃げていたのは私も同じです、春風さん』
「え…」
『こんなことになって、今更私は自分と向き合おうとしているし、ずっと突き放していた家族を求めるようになった。』
私は一度壊れた。
テーブルから落ちたカップみたいに、バラバラに割れて壊れた。
でも今、それを一つ一つ繋ぎ合わせようとしている。
『だからお願い、春風さん。私をちゃんと見て。』
わがままを言っていることはわかってる。
大丈夫って知ってるから。春風さんは、今更私を突き放したりしないから。
「わかりました」
ちくっとした痛みがあって、親指から血が流れた。…カップの破片で手を切ったらしい。
咄嗟に舐めようとしたら、春風さんが慌てて止めた。
「そう言うところありますよね…」
信じられないという風に言われ、治療までしてもらった。
…え、傷舐めるのだめ?そんなに汚いものを見るような目をしなくても……。
何はともあれ、その場の空気がちょっと和んだのは確かだった。