第10章 戦国に降る霧雨
狂っていく。
日常は変わっていく。
「産屋敷邸、襲撃ーーーーーーーーッ!!!!!」
夜の見廻り中、烏が飛んできて叫んだ。
「うぶ…や、しき」
ハッとした。お館様の顔が頭に浮かぶ。そしてご子息様に奥方様の顔も。
「烏ッ!!私が参ります!!どのような鬼めがそのようなことを!?」
産屋敷邸へ走りながら叫んだ。
烏は、こう答えた。
「継国巌勝が産屋敷邸を襲撃ーーーーーーーーッ!!!!!」
たどり着いた頃にはそこは地獄絵図だった。
畳の上に伏したお館様の体には首から上がなかった。
生首は畳の上に転がされている。
「どうして」
目の前にいる人は何も言わない。
優しかったその人は。
大好きだったその人は。
もう、その感情に私が理解できるものはなかった。
師範だった。
紛れもなく師範だった。
私に刀を振り下ろすのは。
若君と奥方様をきずつけるのは。
お館様を、殺したのは。
「お前は、私にとって縁壱と同じなのだ、阿国。」
致命傷を負ってしまった私は立てなかった。
もはや私にできることなんてなかった。
「し………は、ん」
「…まだ生きているのか」
「わ、たし………と………より…ぃ…ち………さ……は………………」
血が止まらない。
呼吸でどうにかできるものではない。
「……ただ…………」
伝えたいことがある。
この人に、きっともう、これで最後だろうから。
「……ぁな、たが………だぃ…い…す……き………ぃ…だ…………っ………た…………」
薄れる意識ではその感情を読み取ることができなかった。
私の目からは涙が流れた。
どうしてこうなってしまったんだろう。どうして幸せは壊れるんだろう。
いっそのこと、全てなければ良かったのに。
あの日、手を取らなければ。
……こんな苦しみを味わうこともなかったのかな。
あぁ、でも、寂しいと思うんだ。
例え嘘でも偽りでも、あの幸せな時間がないのは。
死ぬよりも苦しいと思うんだ……。